さすらいのお魚釣り野郎 〜北海道・原風景の魚たち編〜 第5夜

つりたび

朝からいくつかの河口で竿を振ってみるものの、カラフトマスの姿はなかった。ツイッターでつぶやきながら北上したことで、讃岐大王さんからいくつかのアドバイスをいただき、「魚がいれば見える」と聞いていたけれど、どれくらい見えるのかわからない。そもそも「どれくらいいるものなのか?」そして「いれば釣れるのか?」そんな塩梅がわからないから、手探りで走り回ってみる。

ルサ川。この河口が魚で埋め尽くされることもあるとか

観光スポットの天狗岩

はじめて川を見たとき「こんなに水の少ない川にサケやマスが戻ってくる? 魚が登れないよね?」って思えた。というのも、僕はもっと大きな河に隆々と遡上するサケやマスを想像していたからだ。もちろんそういう河もあるんだろうけど、釣りは禁止されていることが多いみたい。またしても自分の勝手なイメージは覆されてしまった。

いちばんの驚きはこのチョロチョロと流れる小さな川にも魚は帰ってくるということだ。現に、川に入ったばかりのカラフトマスが数匹見えた。これを釣ってしまえば手っ取り早いんだけど、川に入った魚は釣ってはいけないのが北海道のルール。

羅臼川で偶然見かけたサケマス捕獲の一部始終。
サケのオスとメス、マスのオスとメスに分けられ運ばれていった。

肝心の魚が見当たらないので川を眺めていると、小さな魚が目に映った。車に戻って竿を取り出して、魚を狙ってみる。「・・・ついてくるぞ。釣れるか・・・おっ!」

オショロコマだ!

河口から数十メートルの場所で釣れてしまった。”渓流の宝石”と形容されるオショロコマだから、もっと山のなかじゃないと見れないと思ってた。ちょっと待てよ。最下流でオショロコマが釣れる? 河口からカラフトマスも狙える? となりの漁港で根魚だって釣れる? この手の届く範囲にどれだけ魚が棲んでるんだろう。世界遺産・知床の懐の深さを垣間見た瞬間だった。

昼すぎに漁港でなにか釣れないかと竿を出してみるものの、釣れてくるのは昨夜のガヤばかり。1オンスのオモリに、4インチのパワーホグという大きめのテキサスリグなのに、昨日と同じサイズのガヤがルアーにアタックしてくる始末。いったい水のなかはどうなってんだろ・・・。テトラに佇むウミネコみたいに、数えきれないんだろうな。

1匹だけ混じった黄金色のシマゾイ。ピーコックバスが釣れたのかって

一緒に糸を垂らした3人のライダー。それぞれちがった理由で北海道を旅して、羅臼で意気投合したみたい。今朝、相泊のむこうでサケを釣ったと教えてくれたけど、クジラの死骸にヒグマが群がってるなんて聞いてしまうとひとりで行けないよ。3人とはフェイスブックのおかげで、今もつながってる。またいつかどこかで。

終日、羅臼をウロウロしてみたけれど、やはりカラフトマスの姿は見えない。こちらで出会った釣り師のみなさんも右往左往していた。道沿いの商店のおばさんが言うには、カラフトマスの漁獲は例年の3分の1程度だったみたい。おばさんの旦那が漁師だそうで、余計に釣れる気がしなくなってきた。うんうんと頭をひねるあいだに日暮れをむかえてしまった。カラフトマスは明日に持ち越すことに。

道の駅で食べた時鮭(ときしらず)の定食。時鮭とは、産卵のために川へ遡上したサケではなく、卵巣や精巣にエネルギーを使うまえの、栄養を蓄えたままのサケをいう。知床の近海は急深だから、周辺を回遊する若いサケが獲れやすいんだって。

こちらは時価のブドウエビ。時間が経つと葡萄のような色味になることから名前がついたとか。流通量が少ない幻のエビ。味は甘エビのような、牡丹エビのような、僕にはまだ早かったかな。

はてさて。食堂のテレビには、いくつかの場所で過去最高の雨量を観測したというニュースが流れる。北海道に着いてから断続的に降りつづける雨は釣りにあまりよくないけれど、観光するにも億劫だから明日も釣ることに決めた。今日河口にいないカラフトマスが明日いるかという疑問もあって、羅臼で待つよりはオホーツク海側のウトロへ抜けたほうがいいかもしれない。そうだよな。夜のあいだに知床街道を越えて、明日の朝はウトロでむかえよう。

サラブレッドのようにたくましいエゾシカ、光り輝く星空、霧に覆われた1本道。夜の知床街道はどこか遠くにタイムワープしてしまいそうな、幻想的な美しさがあった。

ラウス、またいつか。

さすらいのお魚釣り野郎 〜北海道・原風景の魚たち編〜 第6夜」につづく

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