タナケンの故郷で、滝つぼの大イワナを狙いました
5月のある朝。京都・山科でタナケンと合流する。行き先はタナケンの育った、飛騨高山の渓流。「滝つぼの大イワナを釣りましょう。」去年の西表島だったのか、春の琵琶湖だったのか忘れたけれど、そんな約束で今日はやってきた。
京都から4時間のドライブで彼の実家に車が停まると、玄関で彼の祖父母に迎えられた。挨拶もそこそこに出発するつもりだったけれど、「昼ごはんを食べてから釣ればいい」ということでご好意に甘えることに。
タナケンの実家から車でさらに1時間。それから徒歩で30分。吹き出す汗をぬぐいながら山菜の生い茂る崖を下り、やってきたその源流はイワナの楽園だった。
イワナは悪食で有名だ。なんでも食べる。魚類、虫類は言うに及ばず、カエルやヘビのような両生類、内臓からモグラが見つかったこともあるそうだ。餌となる生きものが少ない環境で生き抜くためとはいえ、そんな習性のせいかほとんどのキャストでルアーを追う姿が確認できる。こちらの足元まで泳いできた魚もちらほら。
遠くから見れば穏やかな滝つぼも、近づけば、一瞬で嵐のなかに迷いこんだみたいだ。「ザザザザザ」「ドドドドド」勢いよく落ちたり、舞い上がったりする水しぶきで全身ずぶ濡れになりながら、滝つぼにルアーを投げ入れる。その数投目。ギラリと光り、グルングルンと大岩の隙間を踊る魚体。大きい! 一気に寄せて、引っこ抜いた魚を網で押さえる。
その夜、食卓を囲んでタナケンの祖父母といろんな話しをした。家族のことや、この町のこと。晩ごはんの飛騨牛やアユ、今日採れたイワナのこと。親子3代で釣りをすること。御嶽のイワナは天皇陛下に献上されたこともあるのだとか。
お風呂からあがって、ふとんに転がる。「明日は5時起きにしましょう」とタナケンが言う。朝起きるとテーブルにおにぎりが用意されていて、2人で半分ずつ食べた。釣れずに帰ると、地元料理の朴葉巻をつくってくれた。「孫が友達を連れて帰ってくるというから楽しみで。」ふと目に入ったカレンダーに、しるしを見つけた。
いつか忘れてしまった感覚に包まれる。三十を超えて、もう二度と触れないと思っていた感覚。少し昔のことを思い出したような気がした。ありがとう、タナケン。